GAME 【月−梨絵side−】
 どうして、こんなことになったのだろう。
 わからない、全然わからない。
 固定された関節が、ぎしぎしと悲鳴をあげている。
 助けて。
 誰か、この縄をほどいて。

PM 7:00

 今日から1週間、両親はいない。なのに、わたしは学校が終わるとまっすぐに帰宅した。
 麻美にいわれたとおり、わたしは真面目なのかもしれない。親がいなくても、門限を気
にしてしまうなんて。
 苦笑いしながら簡単な夕食をつくり、ひとりきりの味気ない食事をしながらテレビを眺
める。
 ささやかな、本当にささやかな反乱。パパは、食事中には絶対テレビをつけさせてくれ
ないから。
 せっかく自由なんだから、もっとはめをはずせばいいのにと、麻美はきっと笑うだろう。
 麻美みたいに奔放に振舞えたらと思う。でも、身体に染みついてしまった生活習慣は、
そう簡単には拭えない。
 別に、テレビなんて見たいわけじゃないのだけれど。
 太った男性タレントの下品な冗談を、やたらと胸の谷間を強調した口の大きな女性タレ
ントが大げさに笑いたてる。
 あまりの低俗さに辟易して、チャンネルを替えようかと思ったところで、ピンポーンと
ドアホンが鳴った。

 ……誰?
 インターホンのスイッチを入れる。
「はい。どちらさまですか?」
「竹澤か? 高畠だ」
 何度も聞いたことのあるしゃがれた声が聞こえてきた。
 高畠? 世界史の先生が、担任でもないのになぜうちに……。
「担任の木村先生に頼まれてな。おまえに渡すものがあるんで、わざわざ届けに来てやっ
たぞ」
 神経を逆撫でするような、恩着せがましい言い方。
 高畠は、生徒みんなに嫌われている。
 まだ三十才にもなっていないはずなのに、でっぷりと太った体型と薄い頭髪のせいで、
四十近く見える。
 背中を丸めてぶつぶつ呟くだけで、授業もひどくつまらない。
 さわやかな風貌と熱心な指導で絶大な人気を誇る木村先生が、高畠に頼みごとをするな
んて。
 違和感があるけれど、そう言われてしまっては、ドアを開けないわけにはいかない。
「こんばんは……」
 しぶしぶ玄関に向かい、ロックをはずした。

 玄関先で帰ると思ったのに、高畠は家の中にまで入りこんで、満足げにお茶を飲んでい
る。
 ズズッと音をたてる飲み方に、嫌悪感を感じるものの、一応教師ではあるのでさすがに
顔にはだせない。
 早く帰ってくれないかな。
「なんだ、親御さんはいないのか。しっかり戸締りしろよ。女ひとりじゃ、無用心だ」
 高畠は、関係ない話をするだけで、いつまでたっても腰をあげようとしない。
「あの、それで先生、木村先生に頼まれたものって……」
 早く帰ってもらいたくて、催促してみる。
「おお、そうだったな。すっかり忘れるところだった。ガハハハハ」
 黄ばんだ歯をむき出して笑いながら、高畠はかばんの中からなにか取りだした。
 それがなにかわからなくて、よく見ようと軽く身をのりだしたところで、目の前に火花
が散った。

PM 8:00

 気がつくと、自分の部屋にいた。
 自分の椅子に座ったまま後ろ手に縛りつけられ、猿轡を噛まされて。
 下着が丸見えになっているのに気がついて足を閉じようとしたけれど、両足首と膝はそ
れぞれ椅子の足にくくりつけられてしまっていた。
 高畠は、わたしのベッドにごろりと横たわり、タバコを吸いながら楽しそうにこちらを
見ている。
 やめて、お気に入りのベッドカバーに、タバコの灰を落とさないで。
 違う、そんなことたいした問題じゃない。
 混乱している。なぜ高畠に、こんなことをされるの?
 目的はなに? お金だったら、ママが置いていってくれた一週間分の生活費が……。
「違うぞ、竹澤。金じゃない。ま、くれるってんなら、もらうけどな。ガハハハ」
 わたしの考えていることなど、お見通しということか。
 高畠はバカにしたような目をして、大笑いすると、タバコを咥えたまま部屋から出て行
った。
 悔しい。
 わけがわからないけれど、悔しくてしかたがない。
 泣くもんか。泣いたら負けだ。

 こんな卑劣な男のために、誰が泣くもんか。

PM 11:00

 高畠が部屋を出ていってから三時間は経つ。
 テレビの音や足音が漏れ聞こえてくるので、帰ったわけではないらしい。居間で好き放
題やっているのだろうと考えると、怒りで奥歯に力がこもる。
 いらいらする。
 お金が目的じゃないなら、身体かと思ったのだけれど、縛ったまま放っておくなんて。
 襲い掛かってきたら、隙をみて股間に蹴りのひとつくらいいれてやろうかと思ったのに。
 ああもう、じれったい。
 肩の関節が、ひどく痛む。もじもじと、腰が勝手に動く。

「しかし、今年の巨人は、なんとかならんもんかなあ、竹澤」
 パパのブランデーをラッパ飲みしながら、高畠が赤い顔をして部屋に入ってきた。
 上着を脱ぎネクタイは緩めていて、はずしたベルトのバックルがガチャガチャと音を立
てている。
 精一杯の怒りを込めて睨みつけてやったけれど、高畠はまったく気にする様子もなく、
どっかとベッドの上にあぐらをかいた。
「だいたい、監督が悪いんだよ、監督が……なんだってあそこでピッチャー替えないかな
あ」
 野球なんて、どうだっていい。そんなことより……。
「ん? どうした、竹澤」
 わたしの落ち着かない様子に気がついたのか、高畠は立ち上がって近づいてきた。
 酒臭い息がまともに顔にかかる。でも、そんなことも気にならないほど、わたしは切羽
詰まっていた。
「なんだ、しょんべんか」
 顔に血が集まる音が聞こえた気がした。
 それでも、何度もうなずいてみせる。ああもう、はやくしないと……。
 けれど、すぐにでも縄を解きだすかと思ったのに、高畠はニヤニヤ笑ったまま、いつま
でも動こうとしない。
 もう我慢できないんだったらっ!
「んーっ、んんーっ!」
 猿轡の下から、必死に叫ぶ。
 高畠の手が、下腹にのびてくる。ああ、やっと解くんだ。そう思って安心したのに。
「フンフン、フフ〜ン」
 鼻歌を歌いながら、高畠は下腹をゆるゆると撫で回してきた。
 ……うそ、やめてったら!
 だんだんと、わたしの股間を凝視している高畠の手に力がこもっていく。
 だめ、ほんとにだめだったら。
 どうして縄がはずれないの、こんなにがんばってるのに。きっと、擦り剥けている。手
首が焼けるように熱い。
 クスクス笑う声が、頭の中をこだまする。

 イヤだったらイヤだったらイヤだったらイヤだったらっ!

 ……生温かい感触が股間に広がり、太腿を伝い、やがて足首まで達した。
 涙で目の前が曇る。何も見えない。見たくない。
 不意に足首に、ぬるっとしたものが触れた。生ぬるい息が、足に絡み付いてくる。おぞ
ましさに背筋が凍るけれど、一度出てしまったものを止めることなんてできない。
 目は曇っても、耳と鼻だけはどうしようもない。ズズッと啜るような音がする。信じた
くない臭気が鼻を突く。
 なめくじのような舌が、ふくらはぎを舐め上げ、太腿に達した。時折肌を強く吸い上げ
られ、思わず呻き声が漏れる。
 中途半端に伸びたヒゲが薄い皮膚をこすり、痛くてたまらない。
 高畠の荒い息が、太腿を侵食していくような気がする。

「うぐっ」
 べちゃべちゃになった下着にむしゃぶりつかれた瞬間、背筋に冷たい痛みが走った。


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